アレルギーではない「ただの好き嫌い」は、予約フォームの備考欄に書くのが正解です。専用の入力欄がないため書き渋る人は多いのですが、宿の公式サイトを読み込んでいくと、好き嫌いをアレルギーとは別枠で、はっきり線引きして明記している宿が実在します。しかも「わがままかどうか」で判断されているわけではありません。通るか通らないかを分けているのは、品数と、その食材が献立のなかで主役か脇役かという構造でした。ここでは公式サイトに対応範囲を明記している3軒を読み解きながら、秋の食卓に向けて、伝え方の現実的な線を整理します。
| 宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 好き嫌いの線引き(公式サイト記載) |
|---|---|---|---|---|---|
| 古屋旅館 | 静岡・熱海 | 93 | 26 | ¥108–¥126k | アレルギーと好き嫌いを別列にした対応表を公開。食材ごとに〇×を明示 |
| 摩周 | 新潟・月岡温泉 | 91 | 38 | ¥56–¥75k | 1人1〜2品程度なら対応可能なケースが多い。副菜は除去、主軸は代替品 |
| 白良荘グランドホテル | 和歌山・白浜 | 88 | 100 | ¥47–¥75k | 苦手食材の対応可能範囲を列挙。肉・魚介は変更可、生野菜は対象外 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。食事や献立の対応内容は各宿の公式サイト記載時点のものです。最新の可否は予約前に宿へ直接確認してください。
アレルギー欄はあるのに、好き嫌い欄がない
予約画面を思い出してみます。アレルギーの申告欄はたいていあります。命に関わるからです。ところが「ピーマンが食べられない」「焼き魚に箸が伸びない」を書く場所は、どこにもありません。
この非対称は、宿の側もはっきり意識しています。ある大型ホテルが公開している事前確認シートには、「好き嫌い」についてお伺いするものではなく「食物アレルギー」に関しお聞かせいただくシートです、という但し書きがわざわざ入っています。つまり好き嫌いは、アレルギー対応の窓口からは意図的に切り離されている。書く欄がないのは設計ミスではなく、設計そのものだったわけです。
そうなると親は迷います。わがままだと思われないか。板前さんの仕事に水を差さないか。結局なにも書かずに予約して、当日の食卓で子どもが箸を止める。ここまでが、よくある流れです。
ただ、宿を一軒ずつ当たっていくと、様子が違ってきます。好き嫌いを黙殺しているのではなく、どこまでなら応じられるかを、公式サイトに文章で書いている宿がある。そして書いてある内容は、親の遠慮とはかなり別の論理で動いていました。
宿は「わがままかどうか」を見ていない
3軒の記載を並べると、共通する判断基準が2つ浮かびます。
ひとつは品数です。月岡温泉の摩周は、「刺身がだめ」「ナスがだめ」といった、1人あたり1〜2品程度の好き嫌いなら対応可能なケースが多い、と明記しています。逆に魚介類が全てだめ、肉が全てだめ、といったコース食材全般に関わる要望は受けられない。熱海の古屋旅館も、コース内の2品以上に影響が出うる広範囲な要望はキャンセルの対象になりうる、と書いています。境目は「気持ち」ではなく「品数」でした。
もうひとつは献立のなかでの位置です。摩周は代替品の考え方を、かなり具体的に公開しています。該当の食材が副菜や複合調理に含まれる場合は「除いて」提供する。主軸となる場合は「代替品」を用意する。たとえばお造り4点のうち海老が食べられないなら、そこが帆立に差し替わる、という説明です。脇役なら抜く、主役なら差し替える。この一行を知っているだけで、伝えるときの解像度がかなり変わります。
そして3軒に共通する、しかし見落とされがちな限界がひとつ。好き嫌い対応とは「大きな塊で出さない」ことであって、完全除去ではありません。古屋旅館は対応表の見出しに、大きな固まりでは出しませんが、小さな食材や出汁成分までの除去はできません、と添えています。摩周も、夕食・朝食とも和食のため、味付けに必須となる鰹出汁・昆布出汁の除去対応はできないと明記する。魚が苦手な子に「魚を一切通さない献立」は、和の宿では原理的に無理がある、ということです。
公式サイトに線引きを明記した3軒
熱海温泉 古屋旅館 — 静岡・熱海
アレルギーと好き嫌いを別々の列に分けた対応表を、PDFで公開している全26室の老舗。
Media Picks Score: 93 / 100 26室、夕食は基本的に部屋食。
目安価格 ¥108,000–¥126,000 / 泊 (2名1室・通常期)

3軒のなかで、この宿の資料がいちばん踏み込んでいます。公開されている「アレルギー・好き嫌い ご対応表」は、食材ごとにアレルギー対応の可否と好き嫌い対応の可否を、別の列で〇×表示したもの。乳製品・卵・落花生は、アレルギー対応は×だが好き嫌い対応は〇。肉類すべてもアレルギーは×で好き嫌いは〇。安全上の保証を求められないぶん、好き嫌いのほうが通る、という逆転がここに可視化されています。
一方で線もはっきりしています。魚介類すべて・野菜すべて・米・かつお・昆布は、好き嫌いでも×。個別の鮭やサバは〇です。また「魚は食べられないがマグロだけは平気」といった食材の指定は受けられないとも明記されています。抜くことはできても、選ぶことはできない、という設計です。
子ども連れの実際
この宿がうまいのは、好き嫌いを申告させるかわりに料理の種別を選ばせる逃げ道を用意している点です。子どもの食事は、大人料金の70%なら大人に準じた和食(小学校高学年を想定、12歳以下)、50%なら和洋折衷の子ども向け料理(4歳〜小学校低学年を想定)。公式サイトは50%の構成例として、ごま豆腐、エビフライや唐揚げ・チキンライスなどのセット、牛肉料理、スープ、水菓子を挙げ、大人向け料理が苦手な子どもに向く、と書いています。小学校高学年でも50%を選べるとも添えてある。「うちの子は好き嫌いが多くて」と切り出さずに、種別の選択だけで着地できます。
さらに、食事なしで申し込んだ場合でも、白ご飯・ふりかけ・おすまし汁程度は無料で提供、しかも当日申し出でも受けられる、と明記。3歳以下向けには別注文の夕食(3,000円・税別)も用意されています。「何も食べられなかったらどうしよう」の底が抜けないのは、親としてかなり大きいところです。
具体情報
- 所在地: 静岡県熱海市東海岸町5-24
- 客室: 26室(本館12.5畳のスタンダードから源泉露天風呂付きまで)
- 夕食: 基本的に部屋食(予約状況と人数により専用個室になる場合あり)
- 子ども料理: 大人料金70%=大人に準じた和食/50%=和洋折衷の子ども向け料理。いずれも12歳以下
- 好き嫌いの申告: 予約時の備考欄。子ども料理の別注文は当日不可
月岡温泉 摩周 — 新潟・月岡温泉
「1人1〜2品なら」という具体的な目安と、副菜は除去・主軸は代替という原則を公開する全38室。
Media Picks Score: 91 / 100 38室、夕食・朝食とも和食。
目安価格 ¥56,000–¥75,000 / 泊 (2名1室・通常期)

好き嫌いについて、いちばん親切な数字を出しているのがこの宿です。公式サイトの案内は「好き嫌いへの食材対応について」という独立した見出しを立てたうえで、少数の、1人あたり1〜2品程度の好き嫌いなら対応可能なケースが多いと書いています。例に挙がっているのが「刺身がだめ」「ナスがだめ」。ピーマンが苦手な6歳を想定するなら、ほぼそのまま当てはまる粒度です。
対応できないケースも5点、番号付きで列挙されています。重度・多数のアレルギー、小麦と大豆、魚介類すべて/野菜すべて/肉類すべてといった全般、チェックイン時の申し出、そして魚介・肉・果物がだめといった多品目。4点目は地味に効きます。当日フロントで言えばなんとかなる、は通用しない。逆に言えば、予約の時点で言えば道はあるということです。
子ども連れの実際
代替品の原則が公開されているため、事前に着地点を想像できます。該当食材が副菜や複合調理に含まれるなら除いて提供、主軸なら代替品を用意。公式の例では、お造り4点のうち該当する1点が帆立に差し替わり、椀物のあしらいからは該当食材が除かれる、という運びです。「抜かれてスカスカになる」のか「別のものが来る」のかが読めるので、子どもへの説明も準備できます。ただし献立は季節で変わり内容は宿に一任、という前提も明記されています。
具体情報
- 所在地: 新潟県新発田市月岡温泉654-1
- 客室: 38室
- 食事: 夕食・朝食とも和食。鰹出汁・昆布出汁の除去対応は不可
- 好き嫌いの目安: 1人あたり1〜2品程度なら対応可能なケースが多い
- 申告のタイミング: 予約時に相談。チェックイン時の申し出は対応不可
- 予約受付: 10時30分〜19時(TEL 0254-32-2131)
白良荘グランドホテル — 和歌山・白浜
苦手食材の「対応可能範囲」を箇条書きで公開。魚は変えられて、生野菜は変えられない。
Media Picks Score: 88 / 100 100室、白良浜に面する温泉ホテル。
目安価格 ¥47,000–¥75,000 / 泊 (2名1室・通常期)

この宿は「食物アレルギーならびに苦手食材の対応について」という独立ページを持ち、苦手食材対応可能範囲を箇条書きで並べています。肉・魚介類に対する変更、生魚に対する変更、宗教上の制約、ベジタリアン、常用薬との相性が悪い食材(グレープフルーツなど)。アレルギーの特定原材料9品目とは別立てで、苦手食材にも一部変更で応じると明記しています。
注目したいのは、そこに添えられた但し書きのほうです。生肉・生野菜の変更はできかねます——つまり冒頭の想定でいえば、魚は変えられて、ピーマンは範囲外。同じ「苦手」でも扱いが割れます。出汁・エキスの変更も不可。子どもの好き嫌いは野菜に集中しがちなので、この一行は先に知っておきたいところです。
子ども連れの実際
もうひとつ、正直に書かれている代償があります。特定原材料9品目・苦手食材の対応を申告した場合、その本人と同行者は朝食がブッフェになる。家族で申告すれば、家族全員の朝食が和定食ではなくブッフェに切り替わる、という意味です。子どもが自分で選べるブッフェのほうが助かる家庭もあれば、朝は静かに和定食がよかった、となる家庭もある。「対応してもらう」ことは無料ではなく、献立の形が変わるという対価があると公式が先に示している点は、むしろ信頼できます。申告は宿泊の3日前まで、直前は不可です。
具体情報
- 所在地: 和歌山県西牟婁郡白浜町868(白良浜に面する)
- 客室: 100室
- 苦手食材の対応範囲: 肉・魚介類、生魚、宗教上の制約、ベジタリアン、常用薬との相性。生肉・生野菜、出汁・エキスは対象外
- 申告期限: 宿泊の3日前まで。直前の連絡は対応不可
- 申告した場合: 本人と同行者は朝食がブッフェに(9品目+肉類のピクトグラム表示あり)
- 予約担当: TEL 0739-43-0100(受付10:00〜18:00)
結局、備考欄になんと書けばいいのか
3軒の記載から逆算すると、書き方はかなり具体的に決まります。
まずアレルギーではないと最初に書くこと。宿は安全のために、アレルギーには別の手順と責任を負います。好き嫌いをアレルギーとして受け取られると、対応の可否がいきなり厳しくなり、場合によっては予約自体を断られます。古屋旅館の対応表で乳製品や卵が「アレルギー×・好き嫌い〇」と割れているのは、まさにここです。「アレルギーではありませんが」の一言が、むしろ道を開ける。
次に品数を絞って、食材名で書く。「好き嫌いが多くて」ではなく「ピーマンと、焼き魚が苦手です」。摩周の基準でいえば1〜2品は射程内、「野菜が全般にだめ」は射程外。同じ子どもの同じ事情でも、書き方の粒度で結果が変わります。
そして期限を守る。3日前まで(白良荘グランドホテル)、当日申し出は不可(摩周・古屋旅館の子ども料理)。献立は数日前から動いています。予約フォームに書く、が最も確実です。
最後に、伝えないという選択について。これは我慢ではなく、宿側が用意した設計として存在します。古屋旅館のように子ども向け料理の種別を選べば、好き嫌いを申告しなくても着地する。食事なしで予約して白ご飯とおすまし汁を頼む手もあり、しかも当日で間に合う。ピーマンが1つ皿に載っていることは、事故ではありません。残していい、という前提で食卓に着ける家族なら、何も書かずに行くのは十分に合理的な判断です。書く欄がないことに罪悪感を抱く必要は、そもそもなかったわけです。
よくある質問
Q. 好き嫌いは、予約フォームのどこに書けばいいですか?
A. 予約時の「備考欄」です。好き嫌い専用の入力欄を設けている宿はほぼありません。古屋旅館は、子ども料理を別注文する際の記入例まで公式サイトに掲載しています。書式に迷うなら「アレルギーではありませんが、ピーマンと焼き魚が苦手です」のように、アレルギーでない旨・食材名・品数が伝わる書き方が確実です。電話予約の場合も、予約時点で伝えます。
Q. どのくらいまでなら対応してもらえますか?
A. 目安は1人あたり1〜2品です。摩周は「刺身がだめ」「ナスがだめ」といった少数の好き嫌いなら対応可能なケースが多いと明記する一方、魚介類すべて・肉類すべてといった全般は対応不可としています。古屋旅館も、コース内の2品以上に影響する広範囲な要望はキャンセル対象になりうると案内しています。
Q. アレルギーと好き嫌いでは、どちらが対応してもらいやすいですか?
A. 食材によっては好き嫌いのほうが通ります。古屋旅館の対応表では、乳製品・卵・落花生・肉類すべてが「アレルギー対応は不可、好き嫌い対応は可」。アレルギー対応は出汁や調理器具の混入まで管理する必要があるのに対し、好き嫌いは大きな塊で出さない配慮で足りるためです。ただし出汁や隠し味レベルまでの除去は、好き嫌い対応では行われません。
Q. 当日フロントで伝えるのでは間に合いませんか?
A. 間に合いません。摩周は、チェックイン時のアレルギー物質・苦手食材の申し出には対応できないと明示しています。白良荘グランドホテルは宿泊の3日前まで、古屋旅館の子ども料理の別注文も当日は不可。献立と仕入れが先に動くためです。例外的に、古屋旅館の白ご飯・ふりかけ・おすまし汁程度は当日でも頼めます。
Q. 魚が苦手な子でも、和の宿の夕食は大丈夫でしょうか?
A. 個別の魚を1〜2品外すことはできますが、魚の気配を完全に消すことはできません。古屋旅館の対応表では鮭やサバは好き嫌い対応が可、一方で「魚介類すべて」やかつお・昆布は不可。摩周も、和食のため鰹出汁・昆布出汁の除去はできないとしています。魚全般が苦手なら、除去を狙うより、子ども向けの和洋折衷料理を選べる宿を探すほうが現実的です。
本記事の参考情報
・古屋旅館「お食事・好き嫌い・アレルギー・塩分・時間など」 — 対応表と子ども料理の区分
・月岡温泉 摩周「【お食事】好き嫌い・アレルギー等について」 — 品数の目安と代替品の原則
・白良荘グランドホテル「食物アレルギーならびに苦手食材の対応について」 — 苦手食材の対応可能範囲
・消費者庁「旅館ホテルにおける食物アレルギーへの対応」 — 業界全体の対応の考え方
編集部から
3軒を読み比べて意外だったのは、宿の側のほうが、親よりずっと事務的だったことです。わがままかどうかを判定する視線はどこにもなく、あるのは品数と献立構造の話だけ。遠慮していたのは親のほうで、宿は最初から「何品ですか」としか聞いていなかった、という構図でした。秋は献立が動く季節です。栗も、きのこも、戻り鰹も入ってくる。苦手なものが増えるということは、通したい要望も増えるということ。備考欄の一行を、今年は少し具体的に書いてみる価値はありそうです。ところで——好き嫌いは、旅先で直ることがあるのでしょうか。家では頑として食べないものを、なぜか宿の膳では食べた。その話は、また別の機会に。