0歳と小学生のきょうだいで、就寝時刻が2時間ずれる夜がある。下の子を20時に寝かしつけたあと、上の子が眠気の波を待つまでの90分。親としてはその時間を「本を読む」「夕食の余韻を味わう」「ひとりで湯に入る」のどれかに使いたいのに、寝室の暗さも、廊下の冷たさも、上の子のテンションを下げてくれない。だからこそ、家族の夜に必要なのは「もう一部屋」ではなく、「襖一枚で仕切れる小さなもう一空間」だと感じる。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。

「もう一部屋」ではなく「もう一空間」を選ぶ理由

子連れの宿選びで「コネクティングルーム」や「2部屋確保」を勧める記事は多い。だが小学校低学年までのきょうだいを連れて旅をする家庭にとって、その選択は二つの意味で重い。一つは料金で、もう一つは「親が下の子の様子を耳で感じ取れる距離にいられない」という安全上の感覚だ。乳幼児と一緒に過ごす旅では、寝かしつけたあと別室に移動して扉を閉めるよりも、襖一枚を引いてその向こうに残る、という形のほうが圧倒的に安心できる。

この感覚に応えるのが、伝統的な日本旅館の「本間と次の間」、あるいは「和室と和洋室を続き間で構成した1室2空間」の間取りだ。本間(メインの寝室)と次の間(小ぶりの居間)が襖や障子で仕切られる構成は、子どもを寝かしつけたあと、親が小さな明かりだけを灯して次の間に移れる。下の子の寝息は襖越しに聞こえ、上の子と読書や会話を続けることもできる。寝かしつけ後の90分が、寝室の薄暗がりに張りつかれた90分ではなく、家族の小さな夜の時間に変わる。

客室の仕切りの種類を、宿選びの軸に置く

1室2空間の客室といっても、仕切りの種類によって機能はだいぶ違う。完全に閉まる襖(紙張りの引戸)は光と音の両方を程よく遮る一方、ガラス引戸は光は通すが音は半分程度遮る。アコーディオンカーテンやパーティションは音漏れが大きい。寝かしつけ目的なら「紙襖または木の引戸で物理的に閉まる構造」を、宿の客室紹介ページで先に確認しておきたい。畳数も重要で、本間が10畳以上、次の間が4.5畳以上あると、布団3組(親2+下の子)を敷いてなお、次の間にスタンドライトと小さなテーブルを置く余白が生まれる。

もう一つの軸は、居間側に「調光できる照明」があるかどうか。本間で寝かしつけている間、次の間の天井照明を全点灯にすると襖の隙間から光が漏れて下の子の眠りを妨げる。スタンドライトや行灯型の間接照明が用意されている宿であれば、足元だけを照らして読書や会話ができる。客室タイプの説明で「行灯」「スタンドライト」「リーディングランプ」といったキーワードが出てくる宿は、設計者が同じ問題を意識している証拠と読める。

紹介する2軒

1. 緑霞山宿 藤井荘 — 長野・山田温泉

本間12.5畳に次の間が付く老舗。森鴎外も泊まった山田温泉に、家族の夜のためのもう一空間がある一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  19室、純和風数寄屋造り(一部和洋室あり)。

目安価格 ¥111,000–¥150,000 / 泊 (2名1室・1泊2食付・通常期)


緑霞山宿 藤井荘 — 長野・山田温泉 · 松川渓谷を望む数寄屋造りの老舗旅館
PHOTO: 緑霞山宿 藤井荘 — 公式サイトを見る →

長野県上高井郡高山村、山田温泉の中心にある老舗旅館。松川渓谷を挟んで山に三方を囲まれた立地で、客室はすべて渓谷側を向く。建物は純和風の数寄屋造りで、客室の多くが「本間(メインの広間)」と「次の間」または「控えの間」で構成される伝統的な間取りを残している。公式の客室紹介に12.5畳の本間に次の間が付くタイプの記載があり、寝かしつけ後に親が次の間へ移って小さな時間を持つ、というこの記事のテーマがそのまま成立する。

子連れで予約する際は、客室タイプの中から「本間+次の間」「8畳+4.5畳」のように畳数が二分されているものを選ぶのが軸になる。仕切りは紙張りの襖で、完全に閉めれば本間側からの光と音はかなり抑えられる。次の間の照明は行灯型と座卓用のスタンドが基本構成で、寝かしつけ後の親が読書や会話に使うのに十分な明るさ。夕食は会席で部屋食または個室会食、朝食は部屋食または食事処というのが一般的な提供形式で、これも下の子のリズムを崩しにくい。

渓谷沿いの立地ゆえに、敷地内でのベビーカー移動は段差や勾配がやや多い。0歳児を抱っこ紐で抱えながらの館内移動を想定しておきたい。最寄駅は長野電鉄須坂駅で、そこからタクシーで約20分。新幹線で東京から長野駅まで90分、長野駅からは志賀高原方面のバスや車で約60分という距離感は、夏休みのまとまった旅程に組み込みやすい。

具体情報

  • 最寄り駅: 長野電鉄須坂駅からタクシー約20分

  • 客室数: 19室、純和風数寄屋造り(本間+次の間構成あり)
  • 客室サイズ: 本間10–12.5畳+次の間4.5畳前後のタイプを含む
  • 食事: 1泊2食付(夕食は会席、部屋食または個室会食)
  • 立地: 山田温泉中心、松川渓谷沿い、敷地内に段差あり

2. 鬼怒川金谷ホテル — 栃木・鬼怒川温泉

スタンダード和室は本間と次の間に分かれ、襖で仕切れる。家族の夜のための小さな余白を、明確に間取りで用意した一軒。

Media Picks Score: 95 / 100  41室、和洋室・和室・スイートを含む7タイプ。

目安価格 ¥114,000–¥150,000 / 泊 (2名1室・1泊2食付・通常期)


鬼怒川金谷ホテル — 栃木・鬼怒川温泉 · 鬼怒川渓谷沿いの和洋室を備えるクラシックホテル
PHOTO: 鬼怒川金谷ホテル — 公式サイトを見る →

金谷ホテル観光グループの鬼怒川温泉の宿(1978年開業)。客室は全7タイプで、温泉露天風呂付きの洋室から、畳とベッドを組み合わせた和洋室、そしてスタンダード和室まで揃う。公式の客室紹介によれば、スタンダード和室は本間と次の間に分かれ、襖で仕切ることができる。これがそのままこの記事の趣旨に合致する間取りで、寝かしつけ後の親が次の間で過ごす、という使い方を想定しやすい。

仕切りは紙襖と木枠の引戸の組み合わせで、完全に閉めれば本間側の暗さを保ちつつ、次の間で抑えた灯りを点けることができる。畳数は本間が広めに取られているため、布団を3組敷いてもなお寝室として余裕がある。次の間にはローテーブルが置かれ、湯あがりの上の子と少し本を読んだり、絵本のページをめくる時間を持てる広さがある。

食事面では夕食を個室会食または会食処で取る形式で、子ども向けの提供にも応じる宿として実績がある。和洋室タイプを選べばベッド就寝が可能なため、布団に慣れていない上の子と床に布団で寝かせたい下の子をひと部屋でまかなえる選択肢になる。

鬼怒川温泉駅から徒歩約3分という立地は、子連れの長距離移動を考えると価値がある(無料送迎は事前連絡で手配可能)。東京からの所要時間は鬼怒川温泉駅まで特急で約2時間、車で約2時間半。日光東照宮や中禅寺湖までは車で30〜50分の距離で、2泊3日の旅程なら、初日と最終日を宿でゆっくり、中日に観光、という組み立てがしやすい。

具体情報

  • 最寄り駅: 鬼怒川温泉駅から徒歩約3分(送迎は事前連絡で手配可)
  • 客室数: 41室、全7タイプ(和洋室・和室・スイート・露天風呂付き等)
  • 1室2空間の客室: スタンダード和室が本間+次の間構成、襖で仕切り可
  • 食事: 1泊2食付、夕食は個室会食または会食処
  • 立地: 鬼怒川温泉駅から徒歩約3分、東京から特急で約2時間

寝かしつけ後の90分をどう設計するか

1室2空間の客室を選んだあと、もう一段の準備で家族の夜の質は変わる。次の間に持っていく荷物は、寝る前のルーティンを終えたあとの大人の時間に必要なものだけに絞っておく。本、軽い飲み物、上の子のためのお絵描き帳や折り紙。これらを宿到着時にあらかじめ次の間側に置いておくと、寝かしつけ後に本間と次の間を行き来する回数が減り、襖の開閉音で下の子が起きるリスクを下げられる。

もう一つは、上の子との約束を出発前に決めておくこと。「下の子が寝たら、次の間で30分だけ本を読もうか」「夕食のあと、次の間でゲームを20分だけしよう」のように、目的と時間を具体化しておくと、上の子も寝室で待たされる感覚を持ちにくい。1室2空間の宿は、こうした親子の小さな儀式が成立する物理的な余白を提供してくれる。だから旅館選びは、間取り図と畳数を見ながら進めることに意味がある。

よくある質問

Q. 0歳児を連れての宿泊は可能ですか?

A. 紹介した2軒はいずれも0歳児からの宿泊に対応しているが、添い寝の年齢上限や子ども料金の設定、ベビーベッドの貸出可否は予約時に必ず確認することを推奨する。和室の本間に布団を3組以上敷くプランも可能だが、客室タイプによっては定員上限がある。

Q. アレルギー対応はできますか?

A. 老舗旅館はいずれも夕食が会席のため、卵・乳・小麦・甲殻類等のアレルギー対応は事前申告で対応可能なケースが多い。ただし完全除去か風味除去かは宿によって異なるので、医師の指示書を持参のうえ、予約時に詳細を伝えるのが安全。

Q. ベビーカーで館内を移動できますか?

A. 老舗旅館の館内は段差や階段が残るケースがあり、特に藤井荘のような渓谷沿いの宿では敷地内の高低差もある。0歳児を抱っこ紐で連れて移動するか、ベビーカーをロビーに置いて館内移動は徒歩、と分けるのが現実的。

Q. 夕食の開始時刻を早めに調整できますか?

A. 1泊2食付の旅館では夕食開始を18時前後にしているケースが多く、希望すれば17:30開始に変更できる宿も多い。下の子の就寝時刻が早い場合は予約時に「17:30開始希望」と伝えておくと、部屋食または個室会食の時間調整が可能。

Q. 何泊で滞在するのが向きますか?

A. 1室2空間の宿は、滞在中に客室で過ごす時間が長いほど価値が出る。1泊だけの観光ベース型の旅程よりも、1泊で2食付き、夕食後と朝食後に客室で家族の時間を取る前提の旅に向く。連泊なら、中日を周辺観光に使う形が組みやすい。

本記事の参考情報

信州高山村観光協会 — 山田温泉エリアの観光情報
日光市観光協会 — 鬼怒川温泉・日光エリアの観光情報

編集部から

子連れの旅で「客室の広さ」だけを宿選びの軸にしていた頃は、夕食後の長い夜をどう過ごすかという視点が抜けていた。本間と次の間、和室と和洋室の続き間、襖と引戸の組み合わせ。この古い日本旅館の構造の中に、きょうだいで就寝時刻がずれる家族の現実的な悩みに応える設計がすでに用意されていることに気づくと、宿選びの解像度が変わる。次回は同じ視点で、瀬戸内・北陸・東北の老舗旅館を順に紹介していきたい。

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