4歳と8歳を連れて夏休みの旅行で旅館に泊まったとき、夕食の最初の皿が「子ども用ではない一人前」だった夜の話を書く。鯛の昆布締めが二切れ、煮物の小鉢、季節の前菜が三種。子ども用にプリンや唐揚げが用意されてくる宿に慣れていた身としては、最初に少し戸惑った。けれど、食卓がいつもより静かになり、いつもより会話が長くなった。子ども扱いされない皿が、4-8歳の食卓に持ち込むものについて考えた一夜の記録です。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

「子ども用ですか?」と訊かれなかった夜

夕食の席についた瞬間、仲居さんが「お子さまのお食事はこちらでよろしいですか」と訊かない宿が、ときどきある。テーブルには大人と同じ献立表が4枚並んでいて、ただ4歳の皿だけ、量がはっきり少ない。8歳の皿は、ほぼ大人と同じ大きさにわずかに足りないくらい。前菜の数も、椀物の汁の量も、八寸の品数も、年齢ごとにわずかに違うが、品目は変わらない。鯛の昆布締めは4歳にも一切れ来ている。

これは「子どもに合わせて子ども料理を出さない」という意味ではない。事前の予約時に「うちは4歳と8歳ですが、量を調整して大人と同じ会席にできますか」と訊いたら「はい、当日の様子を見ながら出します」と返ってきた、その結果である。子ども用唐揚げ・ハンバーグ・プリンの定番セットがまったく登場しないわけではない宿も多いが、こちらが要望すれば「大人会席の量だけ調整したもの」を出してもらえる宿は、4-8歳の親には選択肢に入れておきたい一群だ。

子ども用メニューの「楽しさ」を否定したいわけではない。プリンが嬉しい年齢があり、エビフライが旅の主役になる年齢がある。けれど、4歳と8歳の間で食卓の様子が少しずつ変わってくるこの時期、「大人の食卓に同じ顔で座る」経験は、子どもの食事の振る舞い方を一段階押し上げることがある。鯛の刺身を初めて口に入れた4歳が、隣の8歳のしぐさを真似しながら箸を持ち直したのを見た夜、これは食事の話ではなく、食卓の話だなと思った。

4-8歳の食卓に「同じ皿」が持ち込むもの

子ども用ではない皿が4-8歳の食卓に持ち込むものは、ひとつではない。観察できたものをいくつか書く。

食べる速度が、ゆっくりになる。 子ども用メニューが先にまとめて出てくる宿だと、子どもは10〜15分で食べ終わってしまい、大人がまだお椀のふたを開けたところで「もう終わった、外で遊んでいい?」と訊いてくる。会席の流れに同じ速度で乗ると、前菜・椀物・お造りと、料理が出てくる間に必ず待ち時間がある。最初の数皿は退屈そうにしていた4歳が、3皿目くらいから「次は何が来るの」と訊くようになる。料理が時間の単位として体験される。

好き嫌いが、はっきりする。 子ども用メニューに「好きそうなものを並べる」発想がないので、苦手な食材も普通に皿に乗ってくる。山椒の効いた煮物、酢の物、青魚。8歳は意外と食べ、4歳は半分残す。ここで「全部食べなさい」と言わない宿の良さがある。仲居さんが「これは大人の味なので、お子さまは無理にどうぞ」と笑って下げてくれる。残してもよい、食べてみてもよい、という選択肢が皿の上にある。

大人の会話が、続く。 子どもが「自分は別のテーブルに座っているような皿」を出されている間、夫婦の会話は途切れがちになる。「ちゃんと食べた?」「これおいしいよ、食べてごらん」と、子どもへの呼びかけが会話の大半を占めてしまう。同じ会席が出てくると、子どもが料理を観察している時間、大人は普通に話せる。これは旅館の食事という非日常において、意外と大きい。

記憶に、残る。 子ども用ハンバーグの記憶は5回の旅行で1回も思い出されないが、「あの時、鯛の昆布締めが少しだけ来た」「煮物が苦かったから残した」は、半年経っても出てくる。子どもにとって、旅館の食事が「家とは違う食卓だった」という記憶として保存される。

取り上げる宿(1)扉温泉 明神館 — 長野県松本市

標高1,050mの一軒宿、44室、Relais & Châteaux 加盟。会席・モダン和食・オーガニックフレンチから選べ、小学生未満は会席指定で量・内容を相談できる。

Media Picks Score: 94 / 100  44室、温泉旅館。

目安価格 ¥145,000–¥214,000 / 泊 (2名1室・通常期)


扉温泉 明神館 — 長野県松本市・標高1050mの山中一軒宿、温泉と会席の宿
PHOTO: 扉温泉 明神館 — 公式サイトを見る →

松本駅から無料シャトルバスで約35〜45分、扉峠の山中に建つ44室の一軒宿。1931年創業、現在は国際的なホテルアソシエーションである Relais & Châteaux に加盟する。夕食は「信州ダイニング TOBIRA(和食)」と「ナチュレフレンチ 菜」から選択でき、未就学のお子さまは日本料理の食事処の案内となる。事前に予約時に子どもの年齢・量・苦手食材を伝えると、当日の様子を見ながら出される一人前の調整が可能。アレルギー対応・食事制限は予約時の事前申告で受け付ける旨が公式に案内されている。子ども用メニュー一律ではなく、大人の懐石を年齢に合わせて運用する宿という位置づけに近い。客室は和室・露天風呂付き客室を含む構成、温泉は標高1,050mから湧く源泉。山中の宿らしく、夕食後の時間に外灯が少なく、宿の中で過ごす時間が長くなる。子どもが料理を「観察する時間」を持ちやすい環境。

取り上げる宿(2)ONSEN RYOKAN 由縁別邸 代田 — 東京都世田谷区

小田急線「世田谷代田」駅から徒歩1分、35室の都市型温泉旅館。割烹「月かげ」で個室会食。3名利用・子ども添い寝可、子どもベッドあり。

Media Picks Score: 91 / 100  35室、温泉旅館。

目安価格 ¥54,000–¥98,000 / 泊 (2名1室・通常期)


ONSEN RYOKAN 由縁別邸 代田 — 東京都世田谷区・小田急線世田谷代田駅徒歩1分の都市型温泉旅館
PHOTO: ONSEN RYOKAN 由縁別邸 代田 — 公式サイトを見る →

小田急線「世田谷代田」駅から徒歩1分、35室の都市型温泉旅館。2020年9月開業、UDS HOTELS の運営。温泉は箱根・芦ノ湖温泉から運ぶアルカリ性単純温泉で、女湯にはミストサウナ、男湯にはドライサウナが備わる。夕食は「割烹 月かげ」で会席を提供し、個室での会食が可能。客室は3名利用に対応する部屋やベッド客室が選べ、子ども用ベッドの貸出にも応じる。都心にある「家族で行く温泉旅館」として、新幹線や長距離移動が難しい4-8歳の旅程設計に組み込みやすい。夕食の会席に子どもがどこまで付き合えるか試したい家庭の、最初の一軒として扱える距離感。年齢ごとの量調整や苦手食材は事前相談で対応する旨が公式記載されており、ここでも「子ども用メニューの一律提供」ではなく「大人会席の運用」という選び方ができる。

大人と同じ皿、を実現するための小さな準備

子ども用ではない一人前を選ぶ夜を成立させるために、こちらでできる準備がいくつかある。順に書く。

予約時に「会席を大人と同じで、量だけ調整してほしい」と伝える。 多くの旅館は子ども料金プランがメニュー固定型で組まれており、事前に伝えない限り、当日に子ども用ハンバーグ等が出てくる。子ども料金プラン一覧の中に「大人会席の量調整」がある宿は少ないが、電話やフォームで個別相談に応じる宿は多い。明神館・由縁別邸代田はいずれも、事前相談に応じる旨が公式の問い合わせ案内に明記されている。

苦手食材を、3つに絞って伝える。 アレルギーは命に関わるので別カウントだが、好き嫌いは「全部除いてください」と伝えると会席が成立しなくなる。「青魚は苦手」「山椒は強いので抜いて」「梅は刻まずに」のように、3つくらいに絞ると、宿側も対応しやすい。残しても叱らない、と決めておくのも準備のひとつ。

子どもに、当日の朝に予告する。 「今日の夜は、ハンバーグじゃなくて、おとなと同じごはんが来るからね。たくさんは来ないけど、ちょっとずつ来るから、ちょっとずつ食べてみよう」と朝のうちに伝えておく。4歳の子は宿に着いてから夕食までの数時間で気持ちを切り替える時間を必要とする。

個室か、半個室を選ぶ。 食べる速度が遅くなる夜は、隣の卓を気にしない環境のほうが親も子も楽。明神館は個室会食または客室食、由縁別邸代田は割烹の個室席に案内されるプランが多い。事前にどちらかを確認できる。

その夜の終わり方

食事が終わるのは、子ども用メニューの宿より、30分から1時間遅い。8歳は普段の家での夕食より長く食卓に座り、4歳は途中で「眠い」と言いながらもデザートまで完走する。鯛の昆布締めは結局、半分残った。煮物の小鉢は8歳が完食し、4歳は一口だけ。お造りの一皿に、4歳は最後まで箸を伸ばさなかった。これは失敗ではないと思う。「大人と同じ皿を、自分が選んで残した」という体験が4歳の食卓に残った。

翌朝、朝食の席で、4歳が「きのうのね、おさかな、にがてだった」と自分から言った。家ではほとんど聞かない言い方だった。「にがてだったけど、ちょっと食べた」と続けた。大人と同じ皿は、子どもに「食べる/食べない」の二択ではなく、「これは自分には合わない」を言葉にする訓練を持ち込んでいた。

もちろん、すべての宿でこの夜が成立するわけではないし、すべての4-8歳がこの夜に向くわけでもない。ハンバーグとプリンが心から嬉しい年齢の旅行も、別の意味で大切。けれど、年に2-4回の家族旅行のうち、1回くらいは「子ども用ではない皿」の夜を組んでみる価値があるかもしれない、と書いておく。

よくある質問

Q. 何歳から「大人と同じ会席」を頼めますか?

A. 宿によるが、目安としては固形食を普通に食べられる3-4歳以降。明神館は小学生未満は懐石指定なので、3歳以上は事前相談で量調整を頼める。由縁別邸代田も3歳以上は会席対応の相談に応じる旨が明記されている。生もの(刺身)は4歳前後から少量ずつ、というのが多くの宿の感覚値。

Q. アレルギー対応はどう伝えればいいですか?

A. 予約時、必ず文面(メール・予約フォームの備考欄)で伝える。電話だけで済ませない。卵・乳・落花生・そば・小麦・大豆・甲殻類・そばのいずれかが該当する場合は、品目と症状の重さ(口に入った場合、接触の場合)も書く。明神館はアレルギー食材・食事制限への対応を予約時の事前申告で受け付ける旨を公式に案内している。

Q. 子ども料金はどう設定されていますか?

A. 多くの宿は「食事・寝具あり/食事のみ/寝具のみ/添い寝」の4段階で設定する。大人と同じ会席を量調整で頼む場合は「食事・寝具あり」の小学生または幼児料金(大人の50-70%相当)が一般的。明神館・由縁別邸代田ともに、事前相談で個別に料金提示を受ける形式。

Q. 食事が長くなって途中で子どもが眠くなったらどうしますか?

A. 個室・客室食であれば、途中で部屋に戻る判断ができる。料理を残りまとめて、と伝えれば、デザートまで一気に提供してもらえる宿が多い。割烹形式の場合は中座が難しいので、開始時刻を18時など早めに設定するのが現実的。

Q. 旅程の中で、夕食は何時開始が4-8歳に向きますか?

A. 18時開始が、家での夕食時間と整合性を取りやすい。19時以降は4歳には遅く、終わりが21時を回ると翌朝に響く。明神館・由縁別邸代田ともに18時開始の選択が可能。

本記事の参考情報

扉温泉 明神館(公式) — 食事・アレルギー対応・客室情報
ONSEN RYOKAN 由縁別邸 代田(公式・UDS HOTELS) — 食事・客室・温泉案内
Wikipedia: 扉温泉 — 温泉地の歴史背景

編集部から

4-8歳の家族旅行で「夕食を旅程の中心に置く」という選び方を、Kazokustay は今後も書いていきたい。子ども用メニューの宿が悪いという話ではなく、選択肢として「大人と同じ皿を量だけ調整する宿」が存在することを、同世代の親に共有しておきたい。次は朝食を、その次は宿の客室での食べ方を、書く予定。家族の食卓は、家で続くものだけれど、年に何回か、家ではできない食卓を持つことが、子どもの食べ方を少し変えていく。あなたの最近の家族旅行で、子どもが残した一皿はなんでしたか。

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